キョーリン製薬グループは、社会的に有用で安全な製品・サービスを開発、提供する医薬品事業を通じて、サステナビリティ課題への積極的な対応に取り組んでいます。
中核会社である杏林製薬(株)はその過程(研究・開発から製品に関する情報提供、適正使用まで)において全ての人々の人権を尊重するとともに、医薬品医療機器等法(薬機法)をはじめとする関連法規の遵守に努めています。
主な取り組み(杏林製薬)
研究(創薬)
人を対象とする医薬系研究に関する倫理的配慮
当社では、ヘルシンキ宣言※、各国で定められた法令・指針などに沿って、適切な対応により当事者の同意を得て、ヒトを対象とする研究、ヒト由来試料や情報の入手及びそれらを用いた研究を実施しています。
また、研究員を対象にした生命倫理やゲノム研究・臨床研究に関する倫理教育や研修を行い、研究に協力していただく方々の人権尊重、個人情報の保護などに努めています。
さらに、「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」に基づき、社外有識者を含む研究倫理審査委員会を設置し、研究計画の倫理的及び科学的妥当性について中立的かつ公平に審査しています。
※ ヘルシンキ宣言:ヒトを対象とする医学研究に関わる医師やその他の関係者に対する指針を示す倫理的原則
動物実験における倫理的配慮
人の健康を保持増進する医薬品の研究開発には、動物実験は欠かすことはできません。当社では、動物愛護及び動物福祉に配慮しつつ科学的観点に基づいた動物実験を適正に実施するために、「動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護法)」及び「厚生労働省の所管する実施機関における動物実験等の実施に関する基本指針」などに基づいた規定を制定し、苦痛の軽減(Refinement)、代替法の利用(Replacement)及び使用する動物数の削減(Reduction)の3Rの原則に対する遵守に重点をおき、社内委員会にて各実験内容の審査を行っています。
また、実験動物の飼養及び動物実験の実施状況について規定に対する遵守状況を確認するため、定期的に自主点検を実施しています。 なお厚生労働省の指針に基づき第三者検証機関として、一般財団法人日本医薬情報センター動物実験実施施設認証センターの調査を受け、認証を取得しています。
バイオテクノロジー、バイオハザードへの対応
当社では、遺伝子組換え実験を適正に実施するために「カルタヘナ法」に基づいた規程を制定し、社内委員会にて各実験内容の審査を行っています。
また、病原体等を適正に取り扱うために「国立感染症研究所病原体等安全管理規程」に準拠した規程を制定し、社内委員会にて各病原体等の取り扱いの審査を行っています。
これらの研究に携わる従事者には、委員会が定期的に教育を行い、実験事故や法令違反の未然防止に努めています。
遺伝資源の利用
当社は生物多様性条約の趣旨と名古屋議定書における遺伝資源の取得の機会、及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分のルールを遵守していきます。
新たな遺伝子組換え生物等の使用にあたっては、環境、生物多様性、ヒトへの影響が明らかになっていないため、カルタヘナ議定書と法令を遵守して生物多様性の保全と倫理面の配慮を行い、慎重に取り扱っています。
知的財産の取り扱い
知的財産の適切な保護は、競争力を維持しながらアンメットメディカルニーズに対応していくために重要であり、当社は社内規定により知的財産の取り扱いを定めています。
研究開発の注力領域においては、積極的に知的財産を保護を図り、知的財産権取得への投資を集中させ、事業継続に資する知財ポートフォリオを構築しています。
また特許情報分析を基本としたIP(Intellectual Property)ランドスケープ活動にも力を入れ、将来の研究開発パイプライン構築の一助となるよう、知財情報を研究部門等と共有しています。
臨床開発
臨床試験における被験者の人権の尊重、個人情報の保護、信頼性の確保
当社は、ヘルシンキ宣言及び医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)など関連法規制を遵守して、被験者の人権や個人情報の保護に十分配慮し、新薬候補物質の有効性、安全性を確認する臨床試験を実施しています。
臨床試験の実施計画書については社内外の審査委員会により倫理的かつ科学的妥当性の観点から審査を受け、承認を得ています。その上で実施する臨床試験については、被験者に対して試験の目的や方法、予測される利益と不利益、健康被害補償に関する事項などに関して十分に説明され、その内容を理解した上で被験者が同意し、試験に参加していることを確認しています。
また臨床試験に関わる社員への教育・研修を実施するとともに、治験実施医療機関に対してモニタリングを行い、臨床試験がGCPを遵守して適切に実施されていることを確認しています。さらに試験データを適切に管理し、被験者のプライバシー保護に努めています。
なお外部に委託している臨床試験においても同様の基準で実施されていることを定期的に確認しています。
臨床試験に関する情報及び試験結果の開示
当社は、臨床試験計画及び結果の開示を進め、透明性の向上に取り組んでいます。当社の主導で実施する臨床試験計画については、一般に公開されている臨床試験データベースに公開し、また今後は、研究者をはじめ臨床試験データを活用する可能性のある方々が、臨床試験データに適切にアクセスできる環境を整え、臨床試験データの価値を最大化し、科学の進歩やイノベーションの推進に役立てるよう、情報の開示をしていきます。
現在、情報の開示方法の検討を進めており、準備が整い次第、臨床試験データの開示に関するポリシーとして提示します。
治験薬への拡大アクセス
当社は「拡大治験の依頼を受けた際の取り扱い」について規定し、人道的見地から臨床試験以外で医療機関から実施検討の依頼があった場合や、規制当局からの実施検討の要請があった場合の患者さんへの治験薬提供に関する対応を手順書としてまとめています。
重篤な疾患または生命を脅かす疾患をもつ患者さんの中には、現在ある治療法を全て試みても効果がなく、臨床試験の参加基準を満たさないため治験薬の投与を受けることができない方がいらっしゃいます。
この規定は、治験薬の投与を希望されながら諸般の事情で投与を受けられない方に配慮するためのものです。
技術開発・生産
品質管理
当社は法令、規制要件や社内基準を遵守し、お客様に高品質な製品を安定してお届けすることで医療に貢献しています。グループ会社であるキョーリン製薬グループ工場をはじめとする医薬品製造所との密な連携によって、医薬品等の製造管理及び品質管理の基準(GMP)の継続的な改善を図り、また医薬品の適正流通の基準(GDP)を遵守して、高品質な医薬品を安定した供給に努めています。
品質保証
当社は、広く社会から信頼される製品及び情報を継続的に提供することが必要であり、最優先で実施しなければならない取り組みと考えています。開発から販売までの全ての信頼性保証に関する業務を一元的に捉え、関連した法規制を遵守し、信頼性の確保に最大限、注力しています。
その中心的役割を担う信頼性保証本部は、研究開発・生産・販売部門から独立し、患者さんや医療関係者に安心して使用していただける製品及び情報の提供に取り組んでいます。
開発段階では治験薬の製造管理、品質管理等に関する基準(治験薬GMP)に基づく治験薬の品質保証を行います。市販後(製造販売後)には、各製品が適切な設備で定められた手順書に従って製品が製造されていることを確認するなど、医薬品等の品質管理の基準(GQP)を遵守した品質保証を行い、製品の品質確保に努めています。また市販後に患者さんと医療関係者から寄せられる品質に関する問い合わせに対しては、誠実かつ迅速に応えることを意識し対応しています。
安定供給
グローバル製品の増加やモダリティの多様化により、サプライチェーンはますます複雑化しています。こうした環境変化を踏まえ、当社は世界各地域の需要予測や在庫情報、供給計画を一元的に管理するとともに見える化を図り、安定供給のための体制を構築しました。これにより、原薬の製造から製品の供給まで、グローバルに管理することが可能となりました。また昨今の環境変化に柔軟に対応すべく、さらなる強靭なサプライチェーンの構築を目指します。
原料・中間体・原薬を含む医薬品のサプライチェーンは製品ごとに多種多様であり、かつ国内外の数多くのサプライヤーに支えられています。調達の鎖を途切れさせずに安定供給を継続するには、個々のサプライヤーとの関係を強化し、連携・情報共有を密にすることが不可欠と考えています。さらにリスクヘッジ策として、既存のサプライヤーに加えて複数の代替調達先や各種代替輸送ルートの確保などに努めています。また輸出入を含むロジステックスのコンプライアンスも推進し、安定供給を強化しています。
さらなる安定供給実現のために、製品ごとに適正在庫基準を設定し調達計画を立案していますが、季節性や流行期など変動要因のある製品については、社内営業部門との連携により日々刻々と変化する状況を捉えながら柔軟な調達に努めています。
ここ数年、地政学的なリスクや為替変動、エネルギーコスト上昇や半導体不足等による原材料価格の高騰、物流の2024年問題などが顕在化していますが、当社グループ内外の製造委託先との生産計画や在庫調整、調達先の複数化や代替先の開拓、物流の効率化等を実施することにより様々なリスク低減を図り、製品の安定供給に継続的に取り組んでいきます。
医療過誤の防止及び医薬品識別性の向上
当社は、患者さんや医療関係者が薬剤を取り違える事故を防ぐため、常に使用者の視点に立った製品の提供に努めています。一包化した際に他剤との取違えを防止するため、錠剤・カプセル剤に製品名を直接印字している他、包装シート(PTPシート)を分割しても薬剤名や含量を識別可能にするなど、医療過誤の防止に取り組んでいます。
一部の製品において、PTPシートの表示の見間違えを防止するため、PTPシートに見やすい色と書体を採用し、視認性の向上を図っています。
地域社会との関わり
当社は、持続可能な医薬品生産に向けて、「地球温暖化防止」「資源保護」「自然環境との調和」を重点テーマとする環境保全及び汚染予防に積極的に努めるとともに、地域社会との協調により社会貢献活動を推進し、社会との共生を実現しています。
具体的な地域貢献活動の内容
- 地域の清掃活動への積極的かつ継続的な参加
- 対話の機会として納涼祭等に地域の方々を招待
- 献血活動に参加
調達(SCM)
持続可能な調達への取り組み
当社は、サプライチェーンマネジメントの最適化により、製品の安定供給に努め社会的責任を果たすことが重要と考えており、その実現のために取引先にも社会的責任に基づいた取り組みと協力を求めています。
また持続可能な調達を達成するため、国内外を問わず、関係法令、国際ルール及びその精神を遵守し、高い倫理観をもって調達活動を行うとともに、環境負荷に配慮した化学物質の使用や廃棄物の削減等、環境に配慮した取り組みを推奨しています。
取引先の実地調査
新規サプライヤーの選定に際しては、法令順守、労働安全、環境保全などへの取り組み状況を実地調査、確認した上で、取引を決定しています。既に取引関係のあるサプライヤーには、持続的な品質、安定供給の維持・向上を図るため、定期的に実地訪問をしています。また作業環境(従業員の化学物質暴露防止への取り組み等)や廃棄物削減への取り組み、生産活動により発生する排水及び排気の環境負荷低減への取り組み等についてリスク評価を行います。
実地調査で改善すべき事項が見られた場合は、改善案を提示して是正計画の策定を求め、改善状況をフォローアップしています。
製品情報提供
医薬品の適正使用の推進
医薬品は使い方を誤ると患者さんの健康を害してしまう恐れがある一方、適正に使用していても副作用が発生することもあります。そこで、医薬情報担当者(MR)は、医療従事者に医薬品がより有効に、より安全に使用されるために、製品の適正使用情報を正確かつ迅速に提供することに努めています。
また自社医薬品が医療現場で使用された時に得られた有効性や安全性の情報を収集し、それらを分析・評価した結果を医療従事者に伝達しています。MRは人々の健康に貢献するという使命感のもと、高い倫理観に基づいて行動し、関係法規・ガイドライン、業界ルール、企業行動憲章を含む社内規程を厳重に遵守しながら、業務に邁進しています。
くすりに対するお問い合わせへの対応
当社は、患者さんや医療関係者からの問い合わせに対して、公正かつ偏りがなく、信頼性の高い医療情報を提供する責任があると考えています。この責務任を果たすことによって、安全かつ効果的な製品の適正使用を促進しています。
この認識のもと、くすり情報センターを開設し、様々な問い合わせに対応しています。
医薬品情報に関するお問い合わせへの対応において、一貫性のある適切かつ正確な情報の提供を目指し、常に客観的な事実・最新データに基づき対応できるよう改善を続けています。
この取り組みによって、問い合わせに対して簡潔、迅速かつ正確に回答するとともに、患者さんや医療関係者のニーズを分析し、製品のライフサイクルマネジメントに役立てています。グローバルレベルで医療情報システムを使用することで、患者さんや医療従事者からの問い合わせに対しより高質な対応を行います。
問い合わせ件数:約23,500件(2022年度)
患者さん・医療関係者への取り組み
「ドクターサロン」による情報提供
全国の一般医師の日常診療に関する質問にお答えする医師向けのラジオ番組(ラジオNIKKEI第1)「ドクターサロン」に提供しています。
その番組内容等を編集した冊子を配布するとともに、Web上で冊子のバックナンバーを掲載し、またPodcastで放送番組の音源配信を行っています。プライマリケアを中心とした先生方に大変ご好評をいただいています。
医療関係者・患者さん向けWebサイトの公開
医療関係者向けのWebサイト「Kyorin Medical Bridge」等に、製品に関する情報、最新学術情報、日常の診療に役立つ情報を掲載し、医療関係者の情報ニーズへの対応に努めています。
患者さん向けのWebサイトでは、薬剤の正しい服用方法や疾患情報等を提供し、患者さんのアドヒアランス向上に努めています。
疾患情報の提供
医療関係者が患者さんに行うインフォームドコンセント(説明と同意)用の疾患情報ツールを作成し、患者さんが疾患を正しく理解してQOLの改善を目指すお手伝いをしています。
「創薬医学講座」への支援
産学連携によるポストゲノム時代における国の創薬を担うイノベーティブな人材養成を目的とする、京都大学大学院医学研究科「創薬医学講座」の設立に賛同し、支援をしています。
「医学教育プロジェクト」への支援
医療関係者の教育機会の創出、ならびに知識・能力の向上を通じ、医療の質の向上に寄与することを目的に一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会が企画・運営する医学教育プロジェクトへ支援をしています。
信頼性保証
当社は、取り扱う製品について、きめ細かい信頼性保証体制を構築し、関連法規の遵守と信頼性の確保、品質保証、安全管理を通して、広く社会からの信頼を獲得していきます。
信頼性保証体制
当社グループでは、高品質な製品を安定的に提供するため、医薬品については、医薬品等の品質管理の基準(GQP)及び医薬品等の製造販売後安全管理の基準(GVP)を遵守し、診断事業においては、医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準(QMS)を遵守する体制を構築しています。
その中心的役割を担う信頼性保証部門は、研究開発・製造・販売部門から独立し、患者さんや医療関係者に安心して使用していただく製品及び情報を提供することを目指して、製品の一元的信頼性保証への取り組みを推進します。
また市販後(製造販売後)に、患者さんや医療関係者から寄せられる製品の有効性、安全性及び品質に関する問い合わせに誠実かつ迅速に対応することで、適正使用の推進及び信頼性保証の維持に努めています。
品質保証
当社グループは、製品の品質確保と安定供給の両立を図るための品質方針を掲げ、科学的根拠に基づいた品質リスクマネジメントにより製造所管理の強化に取り組んでいます。
医薬品では、開発段階からグループ工場等と連携して医薬品等の製造管理及び品質管理の基準(GMP)に基づく高品質な製品の供給体制を構築するとともに、医薬品の適正流通の基準(GDP)に適合する流通体制を構築しています。さらに市販後にはGQPを遵守した品質保証を行い、開発・生産から流通まで、製品の品質確保と安定供給に努めています。
体外診断用医薬品・医療機器(診断事業)についても、設計・開発段階から販売まで、QMSを遵守した品質保証を行い、高品質な製品の提供に取り組んでいます。また製品品質の維持と流通過程での完全性を保証するため、保管または流通業者における管理が適正に行われているか、実地調査を含め適切に確認し、GDPに適合する流通体制を構築しています。
安全管理
医薬品は患者さんの治療に役立つ有効性(ベネフィット)及び患者さんにとって好ましくない副作用(リスク)があります。開発段階では、治験薬の安全性情報を収集管理し、治験薬の安全性プロファイルの変化を適切に監視・評価しています。
また市販後に、開発段階では予測できなかった副作用等が明らかになることがあります。このため、市販後にはベネフィットとリスクについて幅広い情報を収集・分析し、そのバランスを考慮して、適正情報を医療現場に迅速に提供することが重要です。
当社グループでは、医薬品ごとにリスク管理計画(RMP)の策定と安全性情報の収集管理を行っています。GVPを遵守した医薬品・医療機器等の監視活動を行い、安全性確保と適正使用の推進に努めています。
製造販売後調査は市販後の医薬品の安全性、有効性の情報収集・評価を目的として行われるもので、医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準(GPSP)を遵守して実施されます。